ほうじ茶は「余り物の再利用」じゃない。茶農家が本気で挑む、品種で味わう極上の一杯
肌寒い風が吹き抜ける日が増えてくると、立ちのぼる香ばしい湯気とともに、あたたかいお茶が恋しくなってきます。
「ほうじ茶って、家で普段着のように飲むお茶でしょ?」
「緑茶が古くなったときに炒る、庶民的なお茶なんじゃないの?」
そう思っていたら、ぜひ知ってほしいことがあります。
ほうじ茶には、知れば知るほど面白い歴史があり、茶葉の選び方や火加減ひとつで劇的に表情を変える奥深い世界が広がっています。
静岡の山奥で土に触れ、お茶の生産から製造、販売までを一貫して手がけているからこそ伝えたい、ほうじ茶の本当の魅力。
そしてこの秋、自園のお茶の可能性を広げるために挑んだ「特別なほうじ茶」の話をさせてください。
ほうじ茶の知られざる歴史|「もったいない」から生まれた2つの物語
普段何気なく口にしているほうじ茶ですが、その歴史は意外と新しく、誕生からおよそ100年ほどしか経っていないようです。成り立ちには、主に2つの説があります。
1. 京都発祥説(1920年代) 煎茶は、茶葉の段階で発酵度や酸化度がゼロに近い、非常にデリケートな飲み物です。現代のような保存技術がなかった時代、茶葉は湿気や酸素を吸って品質が劣化しやすいものでした。「風味が落ちてしまったお茶を、なんとか美味しく飲めないか」とフライパンなどで焙じたところ、渋みが抑えられ、香ばしく飲みやすいお茶に生まれ変わった——という説で、京都の茶商・三代目林屋新兵衛が元祖と言われています。
2. 金沢発祥説(1902年) 石川県金沢市の茶商・三代目新兵衛(初代は1753年創業の「越中屋新兵衛」)が、それまで廃物とされていた茶の「茎」を活用し、焙じて売り出したのが始まりという説です。評判を呼んで金沢市茶業組合にも製法が伝えられ、北陸一帯に広まりました。「加賀棒茶」をはじめとする棒ほうじ茶のルーツです。
面白いことに、この2つの説はどちらも「林屋」という同じ茶商の家系に連なっているという見方もあるんだそうな。真偽はさておき、どちらの説にも共通しているのは、「大切なお茶を無駄にしたくない」というもったいない精神と、「美味しく飲んでもらいたい」という探求心です。
(ざっくり調べた歴史なので、間違いかもしれません。)
「古くなったお茶」のイメージを覆す、焙じ職人の技
かつては「傷みかけたお茶を美味しく飲むための知恵」だったほうじ茶。
でも専門の焙じ職人(焙じ屋さん)の技を知れば知るほど、その奥深さに圧倒されます。
ほうじ茶の味わいは、決して一様ではありません。
収穫時期の違い(春の一番茶か、夏の二番茶か、秋の秋冬番茶か)、茶葉の部位(葉を使うのか、茎を使うのか)、そして火入れの技術——茶葉の水分量や状態を見極めた絶妙な火加減。
これらを緻密にコントロールすることで、立ちのぼる香りの高さも、口に含んだときの甘みもまったく別次元のものに仕上がります。ほうじ茶は、強火で加熱して香ばしさを引き出した「出来上がった瞬間」が香りと味わいのピーク。本来なら時間とともに香りが抜けやすい、とても繊細な飲み物なんです。
できたての香りを閉じ込める、小分け窒素充填×冷蔵保管
ほうじ茶は、炒りたてが一番美味しい。
だからこそ、手元に届くまでその鮮度をどう守るかが最大の課題でした。
湿気を吸えば、せっかくの香気はたちまち失われてしまいます。
ただし、現代は保存技術が確立されているので、3kgごとの小分け包装、酸化と湿気を防ぐ窒素充填(ほぼ真空に近い状態に窒素を注入)、そして鮮度を保つための冷蔵保管の徹底。
茶葉が眠るように香りを閉じ込め、劣化をストップさせています。袋を開けた瞬間に広がる、焙煎所の前にいるかのような香ばしさを、そのまま自宅で体感してもらえるはずです。
この秋、茶農家として挑んだ「2つのシングルオリジンほうじ茶」
自分たちが丹精込めて育てた茶葉で、どこまで香り高いほうじ茶を作れるか。
今年の春に収穫した一番茶を使い、品種ごとの個性をそのまま味わう2種類のシングルオリジンほうじ茶を仕込みました。
焙煎は、信頼できる焙じ屋さんにすべて託しました。
正直、焙じの世界は奥深くて、自分にはまだまだ踏み込めない領域です。
だからこそプロに任せて、それぞれの茶葉の魅力を最大限に引き出す火加減で仕上げてもらっています。
1. 静7132(しず7132)
桜の葉を思わせる、甘く優しい香りを持つ品種です。実はこの香り、昔は煎茶には向かない「欠点」とされていて、長いこと正式な品種名すらつけられていなかった悲しい過去を持つ品種。それを今回、あえて焙じてみることにしました。欠点とされてきた香りが、焙じることでどう変わるのか。正直、やってみるまでわからないところも多かったですが、焙じ屋さんの手にかかって、香ばしさの奥からふわりと上品な甘みが立ちのぼる、唯一無二のほうじ茶に仕上がりました。
2. 香駿(こうしゅん) 6年前、まだ荒れ地だった畑に植えた品種です。最初の数年は収穫できない年が続きましたが、3年目にほんの少しだけ収穫できた時、その香りに感動したのを今でも覚えています。ハーブを思わせる爽やかな香り。和紅茶を製造できるまでになり6年目にしてようやく本格的な収穫を迎えることができました。焙じ屋さんに託したことで、力強い香ばしさの中にあの時感じた清涼感が心地よく残る、キレの良い一杯に仕上がっています。
浅煎りだから味わえる、1煎目と2煎目の違う顔
今回、焙じ屋さんにお願いしたのは「浅煎り」での仕上げです。焙じ香だけで終わらせたくなかったからです。
浅煎りに仕上げたことで、1煎目は焙じた香ばしさ、2煎目には静7132・香駿それぞれの品種本来の香りが立ってくる——そんな二段構えで楽しめる一杯になりました。香ばしさだけで終わらない、奥行きのある味わいです。涼しくなって温かいお茶を何煎も淹れたくなるこの季節だからこそ、この違いをじっくり味わってもらえたら嬉しいです。
10月発売、数量限定です
「静7132」のふくよかな甘みか、「香駿」の凛とした心地よい余韻。
同じほうじ茶でも、品種が違えばこれほどまでに香りの景色が変わるのかと、きっと驚いてもらえると思います。
この2つのシングルオリジンほうじ茶、それぞれ50gで2袋セット1200円(税抜)、数量は90セットのみ。
自社オンラインショップ(mitsuhironouen.com)限定での、数量限定販売になります。在庫がなくなり次第終了で、次回の入荷時期来年になる予定。
毎日の仕事の合間のひと息に。大切な人と囲む夕食のあとに。一日の終わりのリラックスタイムに。畑から心を込めて育てた一杯が、穏やかな時間をお届けできたら嬉しいです。
販売開始の詳細は、ブログやSNSで随時お届けしていきます。よろしくお願いします🍵
0コメント